(表紙 水嶋 一)
● さかべ・おんど」の領布にあたって
静岡県榛原郡坂部村村長 池ヶ谷四郎
同村農業協同組合長 宗 喬
私共の郷土坂部村は、山あり・畑あり、田あり・・・で産物の種類も数多く、純朴な村の気風と相俟って、他町村の方々が異口同音に歎賞されるところでありまして、この自然の恵みは坂部の誇りであります。
ひるがえって文化的な面から考えますと。遺憾ながら、偉大な思想家、科学者、芸術家はいまだ一人も出ておりません。
先輩の美しい見事な贈物に加えて、私達はこれからの方面にも力を致し、次の世代に送らなければなりません。
たとえば一つの俳句にしても、その郷土社会の背景がなければ決して生まれるものではありません。小さな民謡にも、郷土の人情、風俗、産業等がうかがわれるものであります。當地にも民謡はあったかも知れません。郷土豊かな民謡が必ずやあったことと思います。が、それらは當時記録するすべがなかったために自然に消滅してしまったのでしょう。実に惜しいことです。
今回、奥山よしや、太田肇、福代けふの三氏によって郷土民謡「さかべ・おんど」が生まれましたことは、この意味において洵に喜ばしいことであります。有名な「サンタ・ルチア」はナポリの民謡です。
「佐渡おけさ」は新潟の民謡です。私達は「さかべ・おんど」によって郷土をたたえ、一日の苦労を忘れ、あすへの原動力を得ようではありませんか。
然し私共はこの「さかべ・おんど」が決して「サンタ・ルチア」に匹敵する美しさと藝術的價値をもっているというのではありません。これは極めて楚々たる試みでありまして小さな作品であります。より美しく永遠性のある第二・第三の郷土民謡・郷土文藝が生まれ出ることを期待している故にこそ領布の労をいとわぬものであります。
作曲につきましては東京藝術大学教授、下総晥一先生の御懇切なる御添作をいただきましたことを併せ記しまして深く謝意を表する次第であります。
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